ジャズとブルース

ジャズとブルースのお話

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ジャズとブルースのお話



◆ジャズとの出会い
ジャズとの出会いは、戦後の進駐軍向けのラジオ放送です。
当時はジャズという言葉も意識せず、ただ聞こえてくる軽快で楽しい音楽に幼心を揺さぶられたのです。


音楽が終わると最後には必ず「・・・ネットワークフォー、ナァゴヤァ、オオサァカァ」というアナウンサーの声が流れ、それを聴き終わったあと、わたしはいつも大きく「フゥーッ」とため息をついていました。


いわゆる「一目惚れ」というやつで、それ以来半世紀もの間、ジャズとはずっと恋愛関係が続いているといったところです。


◆思い出


その昔、新宿に「キーヨ」というジャズ喫茶がありました。


深夜の狭いトイレの中で、黒人の兵隊さんとバッタリ出くわしたのです。
彼は、やおらレインコートの内ポケットからバーボンを抜き出して私に言いました。
「お前さんも飲みナ」
ゴクゴクとラッパ飲みした後、なにくわぬ顔で二人して店の中に戻りました。


そのとき流れていた曲は、ジミー・スミスの「THE SERMON」です。ジャズがリクツ抜きで体の芯まで到達した瞬間でした。


◆ブルースについて
永年続いた恋愛関係も、途中いろいろな紆余曲折を経て、最終的には「ジャズといえばブルーノート」に落ち着くのですが、ブルーノートのお話は次にするとして、ここでは、ジャズのブルースについて考えて見ましょう。


1861〜1865年に起こった南北戦争と奴隷制度が、黒人の人権保証につながったわけではなく、いわゆる「黒人差別」「人種差別」はこの時にスタートしたといっていいでしょう。


黒人たちは自らのおかれた境遇を歌に託します。出口のない絶望的な状況、どん底に置かれた人間が見出す救いとはどのようなものなのか。
その答えの1つとしてブルースが生まれたのだといわれます。では、彼らはいったいどのように歌ったのでしょうか。


抑圧された黒人たちが、どん底で産み出した音楽、ブルース。
だからといってそこに単純な「悲しさ」や「つらさ」が歌われているわけではありません。


ブルースで歌われる詞の多くは悲しみというよりは愚痴であり、その表現はそれまでの西洋音楽(クラシック)が表現してきたストレートな「悲哀」とは異なり、力強く、陽気さすらうかがわせるものでした。
悲しさと明るさ。我々には対極に思える感情が同居するのがブルースの表現の特徴です。そしてそれこそが、苛酷な状況の中で黒人たちがつかみとった表現手段だったのです。


マイルス・デヴィスやセロニアス・モンク、ジョン・コルトレーンといったミュージシャンに見られる徹底した自己表現へのこだわりや情熱。そのルーツにはブルースがあったのではないでしょうか。


◆ブルーノート
西洋音楽では基本的に、ドレミファソラシドの「長音階」は明るい、「喜び」のイメージを表わし、ドレミbファソラbシbドの「短音階」は暗い、「悲しみ」のイメージを持つものとされています。


そこで、ブルースでは、長音階で構成されたドミソ、ファラドなどの和音の上に、ミbソbシbといった短音階で用いられるメロディを重ねるというブルーノートが登場します。
このような発想は、それまでの西洋音楽には存在しませんでした。そして、この後、ブルーノートを用いた音楽が、世界中に広がることになったのです。

なかでもジャズは、同じアメリカの黒人が中心の音楽でもあり、ブルースとは兄弟関係にあるといってもよい間柄です。
だから、ブルースではない曲の演奏においても、ジャズではしばしばブルーノートが登場します。


こうして見ると、ブルースで登場したブルーノートがマイルスやコルトレーンのこだわりや情熱に大いに影響したことを知らずに、わたしがジャズ=ブルーノート(レーベル、レコード会社のこと)と考えるにいたったことは、何か運命的なものを感じると言っては少し大げさに過ぎますかね。


しかし、おかげでもうやがて50年もの間、ブルーノートに癒され続けてきたのです。
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